生徒たちはそれから続々と学校へ戻ってきた。皆家も家族も見つからなかったようで、沈んだ顔をしていた。
日は傾いたようで、辺りは暗くなってきていた。全員が戻ったことを確認すると、銀八は校庭で言った。
「……しばらくはここで生きていくことになる。電気は使えねェが、食料は備蓄されてる非常食が数日分あるし、水もまだタンクにあるようで水道が使える。今の状況を打開するまではここにいるしかない」
重い沈黙が降りた。やがて、眼鏡をかけた少女が口を開いた。
「マミーにもパピーにも、もう会えないアルか? 死んでしまったアルか?」
「……わからねェ。ただ、生きてくためには前を向くしかない」
その日は全員で教室に集まり、葵は乾パンを皆に配った。18人分の食料となると、残っている非常食を一日一食としても、一週間持つかどうか、というところだった。銀八と相談し、生徒にはそのことを言わないようにしようと決めた。ただでさえ不安でいっぱいなのに、食料も十分にないことが知られるとパニックになるだろうという配慮だった。非常食は国語準備室に、鍵をかけて閉まっておくことになった。ここが未来であるということも、ただの推測なので言わないでおくということになった。
夜は皆で体育館で眠った。ただでさえ堅い床だというのに、この状況で眠れるわけもなく、皆天井をぼんやり見つめたり、隣の者とひっそり話したりしていた。葵ももちろん眠れず、体育館から出て階段に座った。月が出ているようで、ぼんやりとその明かりが柱を照らす。この世界は暑さや寒さを感じず、ちょうどいい気温だった。念のため持ってきた上着は、隣で眠る眼鏡をかけた少女――神楽の上にかけてきた。教室に戻る前に皆から自己紹介をしてもらい、顔と名前はもう覚えていた。
「……眠れねェのか?」
葵の上に影が落ちた。銀八だった。彼は隣に腰を下ろした。
「まァ、当たり前か。こんなとこ来ちまって眠れる奴なんざ誰もいねェ」
「……みんな、良い子だね。銀八の言うことをよく聞いてる」
「どうだかね……明日辺り高杉なんかはどっか行きそうだが」
「ふふ、問題児ってやつね」
葵は笑った。同時に、高校時代を思い出した。
「銀八、あなたも問題児って言われてたよね」
「問題児っつーか……俺は自由にやってたっつーか……」
「うん、すごく自由だった。そこが私、好きだった」
銀八がこちらを見た。葵はにっこりと笑った。
「今、こんな立派な教師になってて、私びっくりしちゃった。教師になるって聞いたときも驚いたけど」
「……また惚れた?」
冗談かと思って銀八を見る。眼鏡の奥に真剣な瞳があった。葵は答えに困ってしまう。
「それは……えーと……」
「先生!」
後ろの扉ががらりと開いた。新八が顔を出した。
「神楽ちゃんが空腹のせいか、目に映るものすべてを食べようとしてます!」
「……今行く」
銀八は中へ入っていった。一人になった葵は、どきどきしている心臓を落ち着かせるべく深呼吸した。どうしてこの状況で、銀八のことを好きになりかけているのだろう。生徒たちにとって自分たちは頼れる存在にならなければならないのだから、恋愛にうつつを抜かしている場合じゃない。葵はそう自分に言い聞かせた。