04

 メイジーとギルデロイは図書館で本をつき合わせ、ひそひそと話していた。
「『錬金術師パラケルススによると、賢者の石を生成するには、「哲学の硫黄」と「哲学の水銀」、そして「塩」の三原質が必要とされる』……哲学の硫黄とか水銀って何?」
「うーん、何だろうね」
「しっかりしてよ、ギル。えーと、『賢者の石を作ることはすなわち「哲学的結婚」であり、これにはアタノールという竈と、哲学者の卵という容器を用いる』……さっぱりわからないわ、作り方はどこ?」
「ここだよ」
「『賢者の石を作るにはまず金属を純化し、三原質を抽出する。そして、抽出した三原質を加熱することで、ニグレド(黒化)、アルベド(白化)、ルベド(赤化)の三段階を経て、深紅の賢者の石が生まれる』……純化って、金属から不純物を取り除く作業のことだったっけ?」
「うーん、たぶんそうだよ」
「作り方ってこれしか載ってないわ。こんなの、全然作れる気がしない」
 メイジーはため息をついた。勢いで賢者の石について調べてみたものの、やはり素人が手を出してはいけない物だったのだ。
「……僕、ニコラス・フラメルに手紙を書いてみるよ」
「そんなの、相手にされないに決まってるじゃない。それに、万が一、私たちで賢者の石を作れても、それを狙う輩が絶対にいるわ。例えば例のあの人とか――こんなの作ろうとするべきじゃないのよ」
 メイジーは冷静になってしまった。賢者の石が作れる可能性が全くないという現実に直面し、石に対する熱も引いてしまった。ギルデロイが口を開きかけたとき、ふと後ろから声を掛けられた。
メイジー、こんなところにいたのかい?」
 振り向くと、ジェームズが立っていた。彼は後ろの椅子をこちらに持ってくると、背もたれを前にして座った。
「君、スネイプにつきまとうのやめたんだって?」
「……そうよ」
 この話を話題にするのはやめてほしく、メイジーは低く言った。
「スネイプを好きじゃなくなったのかい?」
「別に、好きじゃなくなったわけじゃないけど……」
「まあ、理由はいいや……君とスニベリーはお似合いだと思ったんだけどな」
 残念だ、などというジェームズに、メイジーは不審な目を向けた。いったい何が目的なのだろうか。
「……それを言いに来たの?」
「いや、違うよ」
 ジェームズは辺りを見回し、そして一層声を落として言った。
「スニベリーはリリーと仲が良いだろ?」
「うん」
「……僕はそれが気にくわないんだ。だから、スニベルスと君がくっついてほしいと思ってる」
 ははーん、とメイジーは納得した。ジェームズはリリーのことが好きなのだ。まったく、美人は大変だ。
「……でも、セブルスはリリーを好きそうだったよ」
「やっぱりそう思う? 僕の堪は正しかったな……スニベリーのくせに、リリーを好きになるなんざどういう神経してるんだか――じゃなかった。メイジー、君の魅力でスニベルスを骨抜きにしてやるんだ」
「そんなこと言われても……私はリリーと違って美人じゃないし、体型だってまだ子供だし……」
「何弱音を吐いてるんだ。君はかわいいし、スニベルスがロリコンの可能性だってあるだろ? アタックしないと道は開けないぞ、メイジー。やるときはやるんだ」
 ジェームズは自分を利用しようとしている。ならばこっちも彼を利用しなければ。
「……じゃあさ、私とセブルスが結ばれるように、協力してくれる?」
「もちろん、いいさ。僕とリリーの恋路も応援してくれるかい?」
「もちろん」
「よし、決まりだ」
 ジェームズが手を差し出し、メイジーはその手を握った。握手をして離れると、ジェームズは立ち上がった。
「近いうちに作戦会議をしよう。じゃあ、また」
 彼はその場を去って行った。残されたメイジーは、ギルデロイと顔を見合わせる。
「……なんか、味方がついてくれたようだね」
「うん。なんだか自信がまたついてきたわ……こうしちゃいられない、セブルスを探さないと」
メイジー、賢者の石は?」
「また後で!」
 ひそやかにメイジーはささやき、図書館を出た。リリーには対抗できないと諦めていたけれど、ジェームズという味方ができた今、それは些細なことのように思えた。