03
「おはようセブルス! 今日も良い天気ね」
「セブルス、今日も素敵でクールだわ!」
「午後からは何の授業なの、セブルス?」
それからメイジーは、セブルスを見かけては、辺りにジェームズたちがいないのを確認して話しかけた。セブルスは最初は困惑していたようだったが、一ヶ月も経った頃には無視することに決めたようだった。けれど質問すれば答えてくれるので、メイジーはセブルスの優しさに、一層彼を好きになった。
「賢者の石に必要なのは、水銀と硫黄と塩なんだ!」
ギルデロイは暇さえあれば、賢者の石について自分が調べたことをメイジーに教えた。興味がないわけではなかったが、今はセブルスに夢中だったメイジーは、彼と本腰を入れて賢者の石を作ろうとしていなかった。
「もうそれは何度も聞いたわ……そういえば」
大広間への階段を降りながら、メイジーは思い出した。
「レイブンクローのシーカーはどうなったの? 確か、随分前に候補を決めるって言ってたような……」
もう十月も下旬になる。そろそろクィディッチのシーズンだろう。
「ああ、あれか」
ギルデロイの顔に影が落ちた。
「……僕はなれなかった」
メイジーは反応に困った。こういうとき、何と言えばいいのだろう。「まあ」と驚くのも違うし、「ふーん」で済ませるのも悪い気がする。悩んだあげく、「そっか」とメイジーは相づちを打った。ギルデロイは珍しく口を閉ざし、無言で中庭への道を歩いた。それだけ傷ついているということだ。けれど彼にとってはそれでいいのかもしれないと、メイジーは思った。理想ばかりを見ていたギルデロイが、現実と向き合うチャンスと思えば。
「……あれ?」
中庭を横切ろうとして、セブルスの姿を見つけた。彼は柱の陰で、赤毛のきれいな少女と話していた。その少女には見覚えがあった。ホグワーツ特急でローブを着た方が良いと言ってきた監督生だった。
二人は親密な様子で話していた。特にセブルスの顔は赤く、口元にはなんと、穏やかな笑みまで浮かんでいた。メイジーは看過できなかった。セブルスをこんな顔にさせるなんて、一体全体どこの女なのだ。
メイジーはずんずんとそちらに向かった。ギルデロイに「やめた方がいい」と止められたが、無視した。メイジーのセブルスへの気持ちは、誰にも邪魔できないくらい、大きなものなのだ。
「ちょっと、あなた!」
赤毛の少女に向かって叫ぶと、セブルスは額に手を当てて呻いた。驚いたように、緑の瞳を見開く彼女に尋ねる。
「あなた、誰? 随分親しげだけど、セブルスの何なの?」
少女はぽかんとしていたが、やがてくすりと笑った。その笑みは年下である自分を面白がっているようで、気にくわない。
「私はリリーよ。リリー・エヴァンス。セブルスとは幼なじみなの」
「本当に? ただの幼なじみ?」
「そうよ」
今度はセブルスを見上げる。彼はメイジーとは口も利きたくない様子で、頷いた。その目には、邪魔をするなと言わんばかりの怒りが込められていた。メイジーは愕然とした。セブルスはリリーのことが、好きなのだろうか。
――もやもやする。
セブルスはこの少女のことが好き。自分のことは眼中にないと、今この瞬間に気づいた。そりゃあ自分はセブルスより幾分か年下だし、まだ女性としての魅力も出ていないかもしれない。けれどメイジーは押せば何とかなると思って、今までしつこいくらいに声を掛けていた。それでもやっぱり、綺麗な幼なじみの存在に勝つことはないのだ。 メイジーは落ち込んだ。彼女につっかかる前にあった自信は、すっかりなくなっていた。
「そっか」と頷いて、メイジーは二人から離れた。ギルデロイは中庭のベンチに腰掛け、メイジーを待ってくれていた。
「……彼女、スネイプのガールフレンドだったのかい?」
ギルデロイは自分の暗い表情を見て、そう言った。
「ううん、違うけど……」
「じゃあ、勝機はあるじゃないか! なんでそんなに落ち込んでるんだい?」
「セブルスが……何でもない」
これ以上この話をするのは耐えられなかった。メイジーは空元気を出して言った。
「……ギル、賢者の石、作るわよ!」
「おお」とギルデロイは目を輝かせた。
「やっと本腰を入れるんだね、メイジー! 君が本気を出してくれるのを待ってたよ」
メイジーは曖昧に笑った。しばらくセブルス以外のことに没頭したい気分だった。