プリンセスカット

 ふと名前を呼ばれ、チョッパーに武勇伝を聞かせていたウソップは振り向いた。黒く長い髪を風に揺らしながら、ララがこちらにやってきていた。

「何だ?」

「髪を切ってほしいの。ナミに聞いたらウソップが器用だって言われて」

 確かにクルーの髪はたまに切ってあげているが、女性の髪は女性が切った方がいいのでは。そう思い、ウソップは言った。

「おれよりロビンのがいいんじゃねェか? ロビンも器用だし、何よりいくつも手が使える」

「したい髪型があってね、ロビンにできるか聞いたらちょっと難しいって言われたの」

「そんな難しい髪型なのか?」

 それだったらおれにもできねェぞ、と焦って言うと、これなんだけど、とララは一枚の写真を取り出した。そこには、もう見慣れてしまった人物が写っていた。

「おっ、ララの姉ちゃんだ!」

「……なんだおまえ、姉貴と同じ髪型にすんのか?」

 呆れながら聞けば、彼女は何故か照れながら答えた。

「うん……! ずっと姉様と同じ髪型にしたくて伸ばしてたの! 女ヶ島では姉様と同じ髪型なんて、恐れ多くてできなかったから、姉様の目がないところでやりたいと思って」

ララはほんとに姉ちゃん好きなんだな!」

 チョッパーの言葉に、ララは「うん、大好き」と目にハートを浮かべながら答えた。姉様話を続けられては困ると思い、ウソップはすぐに話題を戻した。

「この髪型、確かに難しいかもな……」

「ウソップにもできない?」

 しゅんと眉を下げたララに、ウソップは首を振る。

「いやいや、できねェとは言ってねェ。おれの手にかかれば、このくらい造作もねェこった」

「ほんと? じゃあお願い!」

 思わず『造作もない』と言ってしまったが、顔を輝かせたララに悪い気はせず、へへっと笑うと、敵意にあふれた視線を感じた。ダイニングの前で、サンジがタバコを吸いながらこちらを睨んでいる。あれはどういうことかと恐る恐る聞くと、彼女は答えた。

「私がウソップに切ってもらうって言ったら、サンジに大反対されたの。私の髪を野郎が触るのは許せないとか言って」

 でも説得したから大丈夫だよ、と笑うララは、自分にナイフのように刺さっている視線を感じないのだろうか。呑気にサンジに手を振る彼女に、ため息が出た。
 しかし、一度引き受けたからにはやらねばならない。甲板に新聞紙を広げ、椅子と、ウソップが持つ散髪用のはさみを用意する。姉の写真で髪型を確認するが、見れば見るほど難しそうだった。ララと姉は確かに似ているが、輪郭は姉より少し丸い。これは個人個人で似合う髪の分量や位置があるようだ。ウソップのプライド的にも、責任的にも、ララに似合わせなければいけない。
 目の前に座ったララの、サイドの髪を少し手に取ってみる。なるほど、これは確かに男には触らせたくないかもしれない。滑らかな指通りに、どんなシャンプーを使っているのか気になったが、何もせず髪に触れているとサンジが怒りそうなので、手で切る長さを調整しながら聞いた。

「切る位置はこのくらいがいいか?」

「うーん、姉様はもうちょっと上だったような……」

「それだとララに似合うかわかんねェぞ。ララの輪郭は姉貴と違うから、このくらいがいいと思うんだが」

「そう? じゃあそれでいいよ、ウソップに任せる」

 早々に切る位置が決まり、ウソップは緊張しながらハサミを持つ。斜めにならないよう、まっすぐに切らなければならない。髪をすかない分、失敗すれば目立ってしまう。
 ゆっくりとハサミを入れ、なんとか最後までまっすぐに切ることができた。続いて反対側も、同じ分量の髪を同じ長さで切る。切る部分はあまりなく簡単に思えるが、やはり難しかった。
 ララの正面からおかしくないか確認し、ウソップは額に滲んだ汗を拭った。

「ふ~、緊張した。こんな感じにできたぞ」

 手鏡を渡すと、ララはサイドを確認し満足げに笑った。

「わーすごい、姉様に一歩近づいたって感じ! ありがとう、ウソップ!!」

「おっ、終わったのか?」

「すげー、姉ちゃんそっくりだ!」

 少し離れたところにいたルフィとチョッパーが、こちらにやってくる。ルフィが笑いながらララに言った。

「お前あれだな、チビハンコックだな!」

「チ、チ、チビ……」

 下を向き、何やらわなわなと震えるララに、ウソップはフォローしようと口を開く。

「いや、どっちかというと小さい方で、ララの身長は女なら普通の……」

「ハンコック……」

 うっとりとララは頬に手を当て、ため息をついた。嬉しいんかい、と思わず突っ込む。
 ララは腰に片手を置き、背中を反って地面を指差した。

「『みなすべて許される……そうよ、わらわが美しいから!!』」

「ぶっひゃっひゃっひゃっ、すんげェ似てる!!」

「そのポーズ、なんだ?」

「姉様の、見下しすぎて逆に見上げてるポーズよ」

「……お前の姉貴、すげェ性格してんのな」

 ララの話から想像していた姉様像とだいぶ違うような。

「あら、綺麗に切れたわね」

「ほんと!」

「おう、スーパーな髪型だな!」

「ヨホホホホ、似合ってますよ」

 船の中からロビンとナミ、フランキー、ブルックが出てきた。ありがとう、とララは照れたように微笑む。

「おれが切ったんだ」

「さすがウソップさん、器用ですね~」

「だろ?」

ララちゃーん、ナミさーん、ロビンちゃーん、おやつだよ~」

 ブルックに褒められ得意になっていると、ダイニングのドアが開き、サンジがおやつを持ってきた。

「おれたちの分は!?」

「ダイニングにある」

 ルフィ、チョッパー、フランキー、ブルックがダイニングへ向かう。さておれも行こうかな、とウソップもぎこちなく皆に続こうとした。が、がしりと肩を掴まれた。

「おい、ウソップ」

「な、なんだよ」

ララちゃんの髪に触って、変な気でも起こしたりしてねェよな?」

「はぁ!? そんなんなるわけねェだろ」

「わかんねェだろ? ララちゃんはあんなに可愛くて綺麗でスタイルもいいんだからよォ」

「アホか」

 いつの間にか展望室から降りてきていたゾロが、すれ違いざまにぼそりとつぶやいた。んだと?と青筋を立ててサンジはゾロを振り返る。

「ちょっとサンジくん、私たちのおやつは?」

「はーい、ナミさん今お持ちします!」

 解放されたウソップは、ダイニングへ足を向けた。早く行かなければ、ルフィに食べられてしまう。
 急ごうとした時、後ろからナミとロビンのくすくす笑いが聞こえてきた。振り向くと、サンジがララの前で固まっていた。いつもなら女性に対して賞賛の言葉をこれでもかとかける彼が、何も言わず立ち尽くしている。気のせいか、顔も赤いような。
 珍しいもん見たな、とウソップは驚き、それほどまでに似合う髪型にできたことが嬉しくなった。

20181011

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