芽吹きと煮崩れ
天気の良い、穏やかな日だった。
光に満ちたリビングで、ショーンは本を読んでいた。黒い瞳はゆっくりと文字を追い、時折ページをめくる音だけが、誰もいない部屋で聞こえていた。5年前と違い、ショーンはあどけなさが残るものの、大人びた顔つきをしていた。眉間に皺などはないが、父に一層似てきたと、周りの人によく言われている。段々そう言われるのが嫌になってきたショーンは、去年長い髪を切って短髪にした。これが好評で、リサに初めてかっこいいと言われたことを、ショーンは一生忘れないだろう。
ショーンが読んでいるのは、リサから借りた本だった。休み中は彼女と過ごしたかったが、リサは今年フランスの親戚の家で過ごすようだった。その本はマグルの小説だったが、とても面白く、フクロウが窓をコツコツと叩いているのにも気付かないほどのめり込んでいた。
しまいには鳴き出したフクロウの声に、ショーンはようやく気づき、本を閉じると立ち上がって窓へ向かった。リサかバートから手紙が来たのかと思ったが、フクロウは見覚えのないモリフクロウで、足には四角い大きな封筒が括り付けられていた。OWLの結果が来たのだ。
ショーンは緊張しながらそれをほどくと、急いで封を切り、中の羊皮紙を広げた。
標準魔法レベル試験
合格
優・O
良・E
可・A
不可・P
落第・D
トロール並・T
ショーン・セブルス・スネイプは、次の成績を修めた。
天文学:良(E)
魔法生物飼育学・可(A)
呪文学・優(O)
闇魔術に対する防衛術・優(O)
占い学・可(A)
薬草学・良(E)
魔法史・可(A)
調合薬学・良(E)
変身術・良(E)
思ったより良い結果が出て、ショーンはホッとした。全て合格、特に呪文学とDADAは「優」だ。嬉しくなり、何度も羊皮紙を眺めていると、廊下の方からドアの閉まる音がした。こちらに向かって来る聞き慣れた足音に顔を上げる。夏だというのに全身黒の部屋着を着た父が、キッチンに行こうとしていた。
「あ、父さん」
ショーンは彼を呼び止めた。父は立ち止まり、こちらを向いた。
「どうした?」
「ちょっと相談したいことがあって……OWLの結果が来たんだ」
羊皮紙を掲げると、父は頷いてリビングに入り、ショーンの向かいのソファに腰を下ろした。
この5年で変わったことと言えば、ショーンの背が父と同じくらいになったことや、友達だったリサがガールフレンドになったことの他に、父との距離がだいぶ縮まったことが挙げられる。クリスマス休暇に母から言われた言葉に背中を押され、ショーンは徐々に父と話をするようになった。昔感じていた緊張感は、今ではなくなり、少しフランクに話せるようになっている。
「進路のことか?」
「うん」
ショーンは羊皮紙を手渡した。父はそれを受け取り、目を通した。
「呪文学と防衛術が優か。薬学も優を取ってほしかったが、まあ、良でも十分だろう……なかなか良い成績だな」
満足げに父は言う。ショーンは照れくさくなり、少し笑った。
「うん……この成績なら、色々選択肢があるかな?」
「そうだな……NEWTでも良い成績を出せば、魔法省に勤められる。専門職にもなれるだろう」
「……魔法省なら、オーラーは、どう?」
父は羊皮紙から目を上げた。じっと見つめられ、ショーンも真剣な表情で見つめ返した。
「別に、なりたいってわけじゃないんだ。ただ、選択肢として、オーラーはどうかなと思って」
「……そうか」
父は再び羊皮紙に目を落とした。
「在学中は、防衛術はもちろん、変身術、呪文学、調合薬学の成績が重視される。厳しい適性検査、採用後3年の訓練課程を経て、やっとオーラーの資格が得られる。極めて優秀でなければオーラーにはなれず、合格者が出ない年もある」
詳しいことは、ポッターにでも聞けばいい、と呟くように父は言い、羊皮紙を置いて立ち上がった。リビングから去ろうとする彼に、ショーンは呼びかけた。
「父さんは、僕がもしオーラーになりたいって言ったら、反対する?」
父は振り向いた。感情の読めない表情だった。
「……おまえがなりたいのなら、特に反対はしない」
本当は反対なんじゃないかと、ショーンは直感的に思った。
本当にそう思うか、尋ねようとしたとき、玄関からドアが開く音が聞こえてきた。ビニールをガサガサと鳴らしながら、スーパーから帰ってきた母が姿を見せた。
「ただいまー。野菜が安かったから、いっぱい買っちゃったわ」
「おかえり」
「二人で何の話してたの?」
「……ショーンのOWLの結果についてだ」
まあ見せて、とキッチンに袋を置き、母がリビングにやってきた。テーブルに置かれた羊皮紙を渡すと、ぱっと顔を輝かせた。
「すごいわ、私より成績いいじゃない。さすが、私とお父さんの子!」
よしよし、と頭を撫でられ、ショーンは恥ずかしくなり、母の手を避けた。
「母さん、やめてよ。いくつだと思ってんの」
「何歳になっても、私にとっては小さな子供よ」
そう笑う母の後ろへ目を移すと、父の姿はすでになかった。あの時感じた違和感は、本当だったのかもしれない。
「……どうしたの?」
ショーンの視線の先を振り返り、母は不思議そうに言った。話す気分になれなかったショーンは、何でもない、と首を振った。
「早速リサに、試験結果についての手紙を書いてくるよ」
「ああ、そうね……」
母から結果の紙を返してもらい、自室へと向かう。なんとなく、一人になりたい気分だった。
20180927