デザートを食べ終わった後で、ルナはハリーたちと共にブラックから例のあの人について聞いた。例のあの人はハリーによって復活をしくじり、潜伏していると言うことだった。ベッドに入った後で、ルナはセブルスを思った。自分がこうしている間にも、セブルスは例のあの人の元にいるかも知れない。そう考えるだけで、いてもたってもいられなくなった。
 グリモールド・プレースにいる間は皆とドクシー退治をしたり、ボガート退治をしたりして過ごしたが、ルナはセブルスのことを片時も忘れることはなかった。暇さえあれば持ってきていた本を読んで、ヒーラーになるための勉強をした。救命術は頭に入っているものの、実践したことはなく、役に立つか不安だった。そんなルナの様子をハーマイオニーたちは心配したが、ルナは大丈夫と無理矢理微笑んだ。皆、ルナがセブルスを思うけなげな娘だと感じていたようで、自分の分のデザートをくれたりした。ただ一人、そんなルナの様子が気に食わない人がいた。ブラックだった。
「あいつのことをそんなに心配して何になる?」
 夕食が終わった後、ブラックがソファで本を読むルナの隣に座った。顔を上げれば、ブラックは不可思議極まりない、という顔をしていた。
「昔もデスイーターだったんだ。そんな簡単にやられる奴じゃないだろ」
「それは、そうだけど……」
 ルナは休暇前に自分を抱きしめたセブルスの様子を思い出して、胸が痛くなった。あのときのセブルスは切羽詰まっていた。普段からあまり自分の感情を出さないセブルスが、感情をあふれさせていた。
「でも、準備しておくに越したことはないと思うの。セブルスだけでなく、みんなの命を救えるかもしれないし」
「まあな……それが百点満点の答えだ」
 ルナは本を閉じてブラックを睨んだ。
「どうしてそんな意地悪なことを言うの?」
「君はスネイプだけが親だと思ってるだろう」
 ルナはまじまじとブラックを見つめた。ブラックは頼られたいのだ、自分に。
「そんなことないわ。あなたのことだって親だと思ってる――」
「じゃあ、いつになったらファーストネームで呼んでくれるんだ?」
 ブラックはふてくされているようだった。ルナは笑みを堪えながら、言った。
「……シリウス」
 シリウスは笑みを浮かべ、それからルナの肩に手を回した。
「言えるじゃないか!」
「ふふ、いくらでも言えるわ、シリウス、シリウス、シリウス……」
 感極まったらしく、シリウスから額にキスされる。ルナはクスクスと笑ってその首に手を回した。そのとき、扉が開きルーピンが入ってきた。
「……君たち、何してるんだ?」
 何を勘違いしたのか、呆然とする彼に、シリウスが平然と言った。
「ちょっとした親子の触れ合いだよ」
 新学期はそれからすぐにやってきた。ルナは皆と一緒にホグワーツ特急に乗り、そこでルーナと会った。ルーナは不思議な子だった。杖を左耳に挟んでいて、バタービールのコルクを繋ぎ合わせたネックレスを掛けていて、雑誌を逆さまに読んでいた。
 ネビルは伯父さんからミンビュラス・ミンブルトニアという珍しい植物をもらったらしく、早くスプラウト先生に見せたいと話した。監督生になったロンとハーマイオニーが入ってきたのは、四人で蛙チョコレートのカード交換をしていた頃だった。
「あのね、五年生は各寮に二人ずつ監督生が居るの」ハーマイオニーはこの上なく不機嫌な顔で椅子に腰掛けた。「男女一人ずつ」
「それで、スリザリンの監督生は誰だと思う?」と、ロンが言った。
「マルフォイ」と、ハリーが即座に答えた。
「大当たり」と、ロンが残りの蛙チョコを口に押し込み、もう一つ摘みながら、苦々しげに言った。
「それに、あのいかれた牝牛のパンジー・パーキンソンよ」と、ハーマイオニーが手厳しく言った。「脳震盪を起こしたトロールよりバカなのに、どうして監督生になれるのかしら――」
『脳震盪を起こしたトロールより馬鹿』のフレーズが辛辣で面白く、ルナは笑いをかみ殺した。
「ハッフルパフは誰?」と、ハリーが尋ねた。
「アーニー・マクミランとハンナ・アボット」と、ロンが答えた。
「それから、レイブンクローはアンソニー・ゴールドスタインとパドマ・パチル」と、ハーマイオニーが言った。
「あなた、クリスマス・ダンスパーティにパドマ・パチルと行った」と、ボーッとした声が言った。
 皆一斉にルーナ・ラブグッドを見た。ルーナは、『ザ・クィブラー』誌の上から、瞬きもせずにロンを見つめていた。ロンは、口一杯の蛙チョコを飲み込んだ。
「ああ、そうだけど」ロンが、ちょっと驚いた顔をした。
「あの子、あんまり楽しくなかったって。あなたがあの子とダンスしなかったから、ちゃんと扱ってくれなかったって思ってるんだ。私だったら気にしなかったよ」と、ルーナは思慮深げに言葉を続けた。「ダンスはあんまり好きじゃないから」
 ルーナは、また『ザ・クィブラー』の陰に引っ込んだ。ロンは、しばらく口を開けたまま、雑誌の表紙を見つめていたが、それから何か説明を求めるようにジニーのほうを向いた。しかし、ジニーはクスクス笑いをこらえるために握り拳の先端を口に突っ込んでいた。ロンは呆然として、頭を振り、それから腕時計を見た。
「一定時間ごとに、通路を見回ることになってるんだ」と、ロンが言った。「それから、態度が悪いやつには罰則を与えることができる。クラップとゴイルに難癖つけてやるのが待ちきれないよ――」
「ロン、立場を濫用してはダメ!」と、ハーマイオニーが厳しく言った。
「ああ、そうだとも。だって、マルフォイは絶対濫用しないからな」と、ロンが皮肉たっぷりに言った。
「それじゃ、あいつと同じところに身を落とすわけ?」
「違う。こっちの仲間がやられるより絶対先に、やつの仲間をやってやるだけさ」
「まったくもう、ロン――」
「ゴイルに書き取り百回の罰則をやらせよう。あいつ、書くのが苦手だから、死ぬぜ」と、ロンが嬉しそうに言った。ロンは、ゴイルのブーブー声のように声を低くし、顔をしかめて、一所懸命集中するときの苦しい表情を作り、空中に書き取りをする真似をした。「僕が――罰則を――受けたのは――マントヒヒの――尻に――似ているから」
 皆大笑いだった。しかし、ルーナ・ラブグッドの笑い方には敵わなかった。ルーナが、悲鳴のような笑い声をあげたのだった。ヘドウィグが目を覚まして怒ったように羽をばたつかせ、クルックシャンクスは、上の荷物棚まで跳び上がってシャーッと啼いた。ココも同じく突然ルナの膝から立ち上がると威嚇した。ルーナがあんまり笑い転げたので、持っていた雑誌が手から滑り落ち、脚を伝って床まで落ちた。
「それって、おかしい!」
 ルーナは息も絶えだえで、飛び出した目に涙を溢れさせてロンを見つめていた。ロンは途方に暮れて、まわりを見回した。そのロンの表情がおかしいやら、ルーナがお腹を押さえて身体を前後に揺すり、バカバカしいほど長々と笑い続けることがおかしいやらで、皆がまた笑った。
「君、からかってるの?」ロンが、ルーナに向かって顔をしかめた。
「ヒヒの――尻!」ルーナが、脇腹を押さえながら咽せた。
 皆がルーナの笑いっぷりを見ていた。しかし、ハリーははっとして飛び付くように雑誌を取り上げた。
「これ読んでもいい?」と、ハリーは真剣にルーナに頼んだ。ルーナは、まだ息も絶えだえに笑いながらロンを見つめていたが、頷いた。
 ハリーが雑誌を閉じると、「何か面白いの、あったか?」と、ロンが尋ねた。
「あるはずないわ」と、ハリーが答える前に、ハーマイオニーが手厳しく言った。「『ザ・クィブラー』って、クズよ。皆知ってるわ」
「あら」と、ルーナが言った。「私のお父さんが編集してるんだけど」
「私――あー」ハーマイオニーが、困った顔をした。「あの――ちょっと面白いものも――つまり、とっても――」
「返してちょうだい。ありがとう」と、ルーナは冷たく言うと、身を乗り出すようにしてハリーの手から雑誌を引ったくった。ページをパラパラめくって五十七ページを開き、ルーナはまた決然と雑誌を引っくり返し、その陰に隠れた。そのとき、コンパートメントの扉が開いた。三度目だった。
 ドラコ・マルフォイのニヤニヤ笑いと、両脇に取り巻きのクラップ、ゴイルが予想どおりに現れた。これで楽しくなるはずはなかった。
マルフォイが口を開く前に、「何だい?」と、ハリーが突っかかった。
「礼儀正しくだ、ポッター。さもないと、罰則だぞ」と、マルフォイが気取った声で言った。滑らかなプラチナ・ブロンドの髪の毛と尖った顎が、父親そっくりだった。「おわかりだろうが、君と違って、僕は監督生だ。つまり、君と違って、罰則を与える権限がある」
「ああ」と、ハリーが言った。「だけど君は僕と違って、卑劣なやつだ。だから出て行け。邪魔するな」
 ロン、ハーマイオニー、ジニー、ネビル、ルナが笑った。マルフォイの唇が歪んだ。
「教えてくれ。ウィーズリーの下につくというのは、ポッター、どんな気分だ?」とマルフォイが尋ねた。
「黙りなさい、マルフォイ」と、ハーマイオニーが鋭く言った。
「どうやら、逆鱗に触れたようだねえ」と言って、マルフォイがニヤリとした。「まあ、気をつけることだな、ポッター。なにしろ僕は、君の足が規則の一線を踏み越えないように、犬のように追い廻すからね」
「出て行きなさい!」と言って、ハーマイオニーが立ち上がった。
 ニタニタしながら、マルフォイはハリーに憎々しげな一瞥を投げて出て行った。クラップとゴイルがドスドスとあとに続いた。ハーマイオニーは、その後ろからコンパートメントの扉を閉め、ハリーとルナを見た。ルナはすぐに悟った。ハーマイオニーも同じように、マルフォイがいま言ったことを気にして、ひやりとしていたのだった。
 シリウスの存在がマルフォイに知られているのなら、その父親も知っているに違いない。シリウスがホームまで来たことは失敗だったかもしれない。ルナは暗くなっていく窓を眺めた。ルシウス・マルフォイもまたデスイーターだ。もしシリウスがグリモールド・プレースにいると例のあの人に知られれば――。
「着替えをしたほうがいいわ」と、ハーマイオニーが促した。ロンとハーマイオニーは、ローブの胸に、しっかりと監督生バッジを付けた。
 列車がいよいよ速度を落としはじめた。皆が降りる仕度をはじめた。ロンとハーマイオニーはまたコンパートメントを出て行った。ルナたちは馬車に乗った。ハリーは初めてセストラルを見たようで、ロンにこれは何だと尋ねていた。
「それはセストラルだよ」
 代わりにルナが答えた。
「セストラル?」
「人の死を見た人にしか見えないの。だからロンにも私にも見えない」
「私には見えるよ」ルーナが言った。「私なんか、ここに来た最初の日から見えてたよ」
「……そうだったんだ」
 ハリーは考え込んでいる様子だった。きっと先日のセドリックのことを思い出しているのだろう。ルナは彼を励ましたかったが、何も言葉が出てこず、やめた。
大広間の四つの寮の長テーブルに、生徒たちが次々と着席していた。高窓から垣間見ることのできる空を模した天井は、星もなく真っ暗だった。
 レイブンクローのテーブルのところで、ルーナがふらりと離れて行った。グリフィンドールのテーブルに着くとすぐに、ジニーは四年生たちに呼び掛けられ、同級生と一緒に座るために別れて行った。ルナ、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビルは、テーブルの中ほどに、一緒に座れる席を見つけた。隣にグリフィンドールのゴースト、『首無しニック』が、反対隣にはパーバティ・パチルとラベンダー・ブラウンが座っていた。
「あそこにも居ない」
 ルナも、教職員テーブルを隅から隅まで眺めた。もっともそんな必要はなかった。ハグリッドの大きさでは、どんな列の中でもすぐに見つかるからだった。
「辞めたはずはないし」ロンは、少し心配そうだった。
「そんなこと、絶対ない」と、ハリーがきっぱり言った。
「もしかして――怪我しているとか、そう思う?」と、ハーマイオニーが不安そうに言った。
「違う」と、ハリーが即座に答えた。
「だって、それじゃ、どこに居るの?」
 一瞬、間を置いて、ハリーが、ネビルやパーバティ、ラベンダーに聞こえないように、ごく小さな声で言った。「まだ戻って来てないのかも。ほら――任務から――ダンブルドアのために、この夏にやっていたことから」
「そうか――うん、きっとそうだ」と、ロンが納得したように言った。しかし、ハーマイオニーは唇を噛んで、教職員テーブルを端から端まで眺めていて、ハグリッドの不在の理由をもっと決定的に説明するものを探しているかのようだった。
「あの人、誰?」と、ハーマイオニーが教職員テーブルの真ん中を指差して鋭く言った。
 ダンブルドアは、隣の魔女のほうに首を傾け、その魔女が耳元で何か話していた。ハリーの印象では、その魔女はずんぐりした身体に、薄茶色の短い髪をしていた。そこに、けばけばしいピンクのヘアバンドを着け、それに合わせるようにふんわりしたピンクのカーディガンをローブの上から羽織っていた。魔女は少し顔を正面に向け、ゴブレットから一口飲んだ。ハリーは、その顔を見て愕然とした。その顔を知っていたのだった。青白いガマガエルのような顔、弛んだ瞼と飛び出した両眼――
「アンブリッジっていうひとだ!」
「誰?」と、ルナが言った。
「僕の尋問に居た。ファッジの下で働いてる!」
「カーディガンがいいねえ」ロンがニヤリとした。
「ファッジ大臣の下で働いてるんですって?」と、ハーマイオニーが顔をしかめて繰り返した。「それなら、いったいどうしてここに居るの?」
「さあ――」
 ハーマイオニーは、目を凝らして教職員テーブルを眺め回した。
「まさか」と、ハーマイオニーが呟いた。「違うわ、まさか――」
 組み分けが終わると、ダンブルドアが立ち上がった。
「新入生よ」と、ダンブルドア校長は唇に微笑を湛え、両腕を大きく広げて朗々と言った。「おめでとう! 古顔の諸君よ――お帰り! 挨拶するには時がある。今はその時にあらずじゃ。まずは食べよ!」
 嬉しそうな笑い声があがり、拍手が湧いた。どこからともなく、食べ物が現れていた。大きな肉料理、パイ、野菜料理、パン、ソース、かぼちゃジュースの大瓶。五卓のテーブルが重さに唸っていた。
「いいぞ」と、ロンは待ちきれないように呻き、一番近くにあった骨つき肉の皿を引き寄せ、自分の皿を山盛りにしはじめた。『首無しニック』がうらやましそうに見ていた。
 生徒が食べ終わり、大広間がガヤガヤと騒がしくなりはじめたとき、ダンブルドアが再び立ち上がった。皆の顔が校長のほうを向き、話し声はすぐに止んだ。
「さてと、素晴らしいご馳走を、皆が消化しているところで、学年度はじめのいつものお知らせに、少し時間をいただこう」と、ダンブルドア校長が話しはじめた。「一年生への注意だが、校庭内の『禁じられた森』は生徒立ち入り禁止じゃ――上級生の何人かも、そのことはもう理解しておることじゃろう」
「フィルチ管理人からの要請で、これが四百六十二回目になるそうじゃが、全生徒に伝えて欲しいとのことじゃ。授業と授業のあいだに廊下で魔法を使わないでもらいたいとのこと。その他もろもろの禁止事項だが、すべて長い一覧表となったものが、いまはフィルチ管理人の事務所のドアに貼り出してあるので、確かめられるとのことじゃ」
「今年は、先生が二人かわられた。グラブリー・プランク先生がお戻りになったのを、心から歓迎申し上げる。『魔法生物飼育学』の担当じゃ。さらに、ご紹介するのが、アンブリッジ教授、『闇の魔法に対する防衛術』の新任教授じゃ」
 礼儀正しく、しかしあまり熱のこもらない拍手が起こった。ダンブルドアは、ハグリッドがどうしているのかを言わなかった。
 ダンブルドア校長が言葉を続けた。「クィディッチの寮代表選手の選抜の日は――」
 ダンブルドア校長が言葉を切り、何か用ですかな、という目でアンブリッジ先生を見た。アンブリッジ先生は、立っても座っても同じぐらいの高さだったので、しばらくは、なぜダンブルドア校長が話をやめたのか、誰もわからなかったが、アンブリッジ先生が「エヘン、エヘン」と咳払いをしたので、立ち上がっていることと、スピーチをしようとしているということが明らかになった。
 ダンブルドア校長は、ほんの一瞬驚いた様子だったが、すぐ優雅に腰を掛け、アンブリッジ先生の話を聞くことほど望ましいことはないと言わんばかりの表情をした。他の先生たちは、ダンブルドア校長ほど巧みには驚きを隠せなかった。
「校長先生」アンブリッジ先生が、作り笑いをした。「歓迎のお言葉、恐れ入ります」
 女の子のような甲高い、ため息混じりの話し方だった。アンブリッジ先生は話を続けた。
「さて、ホグワーツに戻って来られて、本当に嬉しいですわ!」と言ってにっこりすると、尖った歯が剥き出しになった。「そして、皆さんの幸せそうなかわいい顔が私を見上げているのは喜ばしいことですわ!」
 ハリーは、周囲を見回した。見渡すかぎり、幸せそうな顔など一つもなかった。むしろ、五歳児並の扱いをされて、皆愕然とした顔をしていた。
「皆さんとお知り合いになれるのを、とても楽しみにしておりました。きっと良いお友達になれますわよ!」
 これには、皆顔を見合わせた。冷笑を隠さない生徒も居た。
「あのカーディガンを借りなくていいなら、お友達になるけど」と、パーバティがラベンダーに囁き、二人は声を殺してクスクス笑った。
 アンブリッジ先生は、また咳払いをした(「エヘン、エヘン」)。次に話し出したとき、ため息混じりが少し消えて、話し方が変わっていた。ずっと、しっかりした口調で、暗記したように無味乾燥な話し方になっていた。
「魔法省は、若い魔女や魔法使いの教育は非常に重要であると、常にそう考えてきました。皆さんが持って生まれた稀なる才能は、慎重に教え導かれ、養って磨かなければ、ものになりません。魔法界独自の古来からの技は、後代に伝えていかなければ、永久に失われてしまいます。われらが祖先が集大成した魔法の知識の宝庫は、教育という気高い天職を持つものによって、守り、補い、磨かれていかなければなりません」
アンブリッジ先生は、ここで一息入れ、同僚の教授陣に会釈した。誰も会釈を返さなかった。
「ホグワーツの歴代校長は、この歴史ある学校をおさめる重職を務めるにあたり、何らかの新規なものを導入してきました。そうあるべきです。進歩が無ければ停滞と衰退あるのみです。しかしながら、進歩のための進歩は奨励されるべきではありません。なぜなら、試練を受け、証明された伝統は、手を加える必要がないからです。そうなると、バランスが大切です。古きものと新しきもの、恒久的なものと変化、伝統と革新――なぜなら、変化による改善の変化もある一方、時満ちれば、判断の誤りと認められるような変化もあるからです。古き慣習のいくつかは維持され、当然そうあるべきですが、陳腐化し、時代遅れとなったものは、放棄されるべきです。保持すべきは保持し、正すべきは正し、禁ずべきやり方とわかったものは何であれ切り捨て、いざ、前進しようではありませんか。開放的で、効果的で、かつ責任ある新しい時代へ」
 アンブリッジ先生が座った。ダンブルドア校長が拍手した。それに倣って教授たちもそうした。
「ありがとうございました。アンブリッジ先生。まさに啓発的じゃった」と、ダンブルドア校長が会釈した。「さて、先ほど言いかけておったが、クィディッチの選抜の日は――」
「ええ、本当に啓発的だったわ」と、ハーマイオニーが低い声で言った。
「おもしろかったなんて言うんじゃないだろうな?」と、ぼんやりした顔でハーマイオニーを見ながら、ロンが小声で言った。「あれは、これまでで最高につまんない演説だった。パーシーと暮らした俺がそう言うんだぜ」
「啓発的だったと言ったのよ。おもしろいじゃなくて」と、ハーマイオニーが言った。「いろんなことが、わかったわ」
「ほんと?」と、ハリーが驚いて言った。「中身の無い無駄話ばっかりに聞こえたけど」
「その、無駄話に、大事なことが隠されていたのよ」と、ハーマイオニーが深刻な言い方をした。
「そうかい?」ロンは、きょとんとしていた。
「たとえば、『進歩のための進歩は奨励されるべきではありません』はどう? それから、『禁ずべきやり方とわかったものは何であれ切り捨てる』はどう?」
「さあ、どういう意味だい?」と、ロンが焦れったそうに言った。
「教えて差し上げるわ」と、ハーマイオニーが不吉な知らせを告げるかのように言った。「魔法省がホグワーツに干渉するっていうことよ」


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