それは毎月、毎月毎月毎月、ナマエを苦しませた。ホグワーツの単なる生徒ではなく、自分が狼人間であることを、体調が悪くなってくると思い知る。数日後の満月の夜には、変身してしまう。本能のまま家族や他人を襲う、化け物に変身してしまうのだ。
けれど、ホグワーツにはスネイプ先生がいた。彼がいて自分はラッキーだったとナマエは思う。ウルフスベインは複雑な調合が必要で、調合できる人は限られている。それを調合できる先生がいること、毎月脱狼薬を飲めるということは、とてもありがたいことだ。おかげで満月の夜、変身しても人間の時と同じ理性が残る。
だからこそ、ナマエは自分の鋭くとがった爪や、生えてくるしっぽを眺めて、ぼんやりと思う。こんな風に、毎月豹変する化け物が、この世にいていいのだろうか。どのみちホグワーツを卒業しても、就職も無理だろう。今はよくても、未来には希望がない。自分の生きる意味はあるのだろうかと。
「……スネイプ先生」
満月の日の夕方、スネイプ先生はいつものように脱狼薬を医務室まで持ってきてくれた。ゴブレットを置き、去ろうとする彼に呼びかける。
「なにかね?」
「……魔法使いが自殺する方法ってありますか?」
スネイプは眉を上げた。こちらを探るように見て、それから答えた。
「……いくらでもある」
「例えば、何ですか?」
「自分に死の呪文を掛けたり、呪いのかかった物を身につけたり、色々だ……人生に絶望して、自殺しようというのかね?」
ナマエは頷いた。スネイプ先生はせせら笑いを浮かべた。
「その歳ですべてを悟った気になるのはよくあることだが、教師としては自殺は推奨できん」
「でも、先生」
ナマエは自分の思っていることを、全部言おうと決めた。
「ここを卒業したら、こうしてスネイプ先生に頼ることもできなくなって、また人を襲う化け物に変身してしまいます。そうしたら、私、就職もできません。一生ひとりで檻の中に閉じこもって、自分をひっかいて、どう猛な本能を押さえ込むしかなくなります」
スネイプ先生はため息をついた。まるで、こんな話に付き合ってられない、というようなため息だった。
「……ダンブルドア校長が、何も考えていないと思うのかね?」
「えっ?」
「校長の命令で、私は君が卒業しても、毎月ウルフスベインを送るよう指示されている。私個人としては、そのような慈善活動をしている暇はないのだが……」
「うそ」
卒業しても、薬を送ってくれる? そんな夢みたいな話があるのだろうか。しかし、スネイプ先生の機嫌の悪そうな顔――だいたい彼はそんな顔をしているが――を見る限り、本当のようだった。
「嘘ではない。将来を憂う暇があったら、これを早く飲め」
ゴブレットを示されて、ナマエは慌てて薬を飲み干す。相変わらずひどい味だ。空になったゴブレットを手渡すと、スネイプ先生は何も言わず去って行った。
ベッドに横になり、言われた言葉を反芻する。スネイプ先生が、卒業後も薬を送ってくれる。ダンブルドア校長には頭が上がらない。今度会ったときはお礼を言おう、と考えて、ナマエは微笑んだ。そうだ、スネイプ先生にも、お礼を言わなければならない。