L02

 死刑囚の演技は中々の物だった。
 ICPOのロゴをバックに、『L』としてキラに語りかける彼を、Lは画面越しに注意深く見つめる。
 原稿を書き、警察を通じて死刑囚に依頼したのはLだ。演じ切らせるため、感情を込めて原稿を読めば刑を軽くするという条件を付けた。死刑執行日の執行時刻に、ICPOの中継に出て読みあげれば死刑を免れる。そんな好条件を拒否する者はいないだろう。
 しかしそれは、必ず死刑囚がキラに殺されるという確信の元で成り立ったものだった。

『相次ぐ犯罪者を狙った連続殺人。これは絶対に許してはならない史上最悪の凶悪殺人事件です』

 何も知らないリンド・L・テイラーは、キラを逆撫でするような言葉を感情を込めて読み上げる。翻訳者もそれに合わせ、語気を強くしていた。

『キラ、おまえがどのような考えでこのような事をしているのか、大体想像はつく。しかし、おまえのしている事は…悪だ!!』

 キラは自ら手を下さずに人を殺せる。
 その確証を得るため、Lはこの中継を行った。
 事件のデータからそう考えるのが自然だが、とても信じられず、この中継で殺しの手口を抑えたかった。そしてもう一つ。キラへの手掛かりを探る重要な意図があった。

『すでに全世界の警察が捜査を始めている。おまえの居場所などすぐに…ぐっ…!』
「!」

 突然、苦しそうに胸を抑えたテイラーに、Lは身を乗り出し、モニターに顔を近づける。彼は身悶えたかと思えば、ぐったりとテーブルに突っ伏し動かなくなった。
 確認せずともわかる。殺されたのだ、キラによって。

「し…信じられない…」

 SPに運ばれていくテイラーを呆然と見つめ、Lは呟いた。

「もしやと思って試してみたが、まさかこんな事が…キラ、おまえは直接手を下さずに人を殺せるのか…?」

 言葉は変声マイクを通じ、中継に流れていく。
 キラに向けて話しているのではなく、目の前で起こったことを消化するため、自分自身に言い聞かせていた。

「や…やはりそうだったのか…この目で見るまでは信じられなかったが……しかしおまえのやってきた事はそのくらいでないとできない…」

 目の前で起こった出来事を呑み込み、徐々に落ち着きを取り戻したLは、声のトーンを落とし、言った。

「よく聞け、キラ。もし今お前がテレビに映っていたリンド・L・テイラーを殺したのなら、それは今日この時間に死刑になる予定だった男だ。私ではない。テレビやネットで報道されてない、警察が極秘に捕まえた犯罪者だ。さすがのおまえも、こんな犯罪者の情報は手にいれてないようだな…だが、Lという私は実在する。さあ! 私を殺してみろ!!」

 キラが自分を殺せないとわかっていての発言だった。
 少なくとも、殺しに必要なのは名前。偽名の大犯罪者は全て死を免れていることから、すぐに突き止められた。

「さあ、早くやってみろ。さあ早く! 殺してみろ。どうした、できないのか」

 思っていた通り、何の変化も起きない。
 Lは薄く口角を上げた。

「どうやら私は殺せないようだな。殺せない人間もいる。いいヒントをもらった。お返しと言っては何だが、もうひとつ、いい事を教えてやろう。この中継は全世界同時中継と銘打ったが、日本の関東地区にしか放送されてない。時間差で各地区に流す予定だったが、もうその必要もなくなった。おまえは今日本の関東に居る。小さな事件で見逃していたが、この一連の事件の最初の犠牲者は、新宿の通り魔だ。大犯罪者が心臓麻痺で死んでいく中で、この通り魔の罪は目立って軽い。しかもこの事件は日本でしか報道されていなかった…これだけで十分推理できた。キラ、おまえが日本に居る事!!そしてこの犠牲者第一号は、おまえの殺しのモルモットだったという事が!!」

「人口の集中する関東に最初に中継し、そこにおまえがいたのはラッキーだった。ここまで自分の思惑通りに行くとは、正直思っていなかったが……キラ、おまえを死刑台に送るのもそう遠くないかもしれない」

「キラ、おまえがどんな手段で殺人を行っているのか、とても興味がある…しかしそんな事は、おまえを捕まえればわかる事だ!!」

 キラは『L』の挑発に乗ってくるような人間、自分の邪魔をするものなら、犯罪者以外の者を殺すことだって厭わない人間。恐らくは自分が正しいと勘違いしている。
 ならば、キラが自分に近づいて来るよう、挑発しなければならない。

「キラ…必ずおまえを捜し出して始末する!! 私が正義だ!!」

「また会おう、キラ」

 変声マイクの電源を落とす。
 これでキラを挑発できただろうか。いや、できているはずだ。
 Lは自分の推理に絶対の自信があった。あとはキラが近付いてくるのを待てばいい。

160424