竜崎はともかくとして、成績が中の中だったナナが学年一位になった影響は大きかった。
樹多と同様、他クラスの人たちから声を掛けられるようにな り、また、クラスのひょうきんな男子達(宇生田を中心としたグループ)は、顔を合わせる度「よっ、学年一位!」などと囃し立ててくる。そしてどちらかとい えば苦手な部類に入る清美が、何故かよく話しかけてくるようになった。
何より一番困ったのが、教師達からよく指されるようになった、ということだ。
例えばナナの苦手な火口先生の数学。
「佐藤、次の答えは?」
「192/8√2-7…?」
「…正解」
三堂先生の物理。
「じゃあこれを…佐藤、何になった?」
「…√15ghになりました」
「どうやって求めた?」
「ん…と、まずフェンスに衝突する寸前のポルシェCの速さを求めました…それからタイヤがパンクしてスピンする回数を使って1/2・M/2V2+M/2gh=1/2・M/2V2c…これを解いてV=√15ghになりました…」
「うん、合ってる。もっと自信を持っていい」
そして、今受けている月先生の英語。
「If you obey God's teachings,the seas will be bountiful and storms will not come」
「お、凄いな佐藤。発音完璧じゃないか」
「えへへ…」
褒められ、はにかむナナの隣でにょきっと手が上がる。
「当然です、私が仕込みましたから」
「へえ、竜崎が…テニスの時も思ったが、最近二人は仲が良いな?」
「はい…先生が間に入る隙がないくらいには」
竜崎の返事に、月は少し目を見開いた後、微笑みながら二人を見つめた。その生温かい眼差しにナナは悟る。何か勘違いしている!
「ちが、違います先生! そういう関係じゃありません!」
「はは…何だ、違うのか。悪かったな佐藤」
「い、いえ…」
まだ微笑みを浮かべている月に、本当に誤解が解けたのか不安に思いつつ、とりあえず腰を下ろした。変なことを言った竜崎を咎めるように軽く睨めば、「本当のことでしょう」と反省の色も無く返される。
「だとしても言い方っていうのがあるでしょ」
「…じゃあ、何と言えば良かったんですか?」
「え? えー…と……」
「何だ、痴話喧嘩か?」
授業に戻った後も小声で話す二人に気づき、月がからかうように言えば、教室内がどっと湧く。
羞恥で赤くなるナナとは対照的に、竜崎はいつもと変わらぬ無表情。彼がまた口を開こうとするのを察し、これ以上何か変なことを言われたら、と焦ったナナはすかさず立ち上がった。
「先生、お喋りしてすみませんでした!」
201210