エピローグ
「ミサを釈放して、本当によかったんでしょうか……?」死神たちが去り、捜査員達がそれぞれ警察署や月たちを入れていた牢獄へ行ったあと、残されたナナは目の前に座る竜崎に問いかけた。竜崎はゆっくりと口を開いた。
「死神のリュークが自分のノートを持っていたように、レムもそれを持っていた可能性が高い。あの死神は本気で私たちを殺そうとしていました……弥を釈放するのは私もどうかと思いましたが、命より大切なものはありません」
しかし、しばらくは弥を監視することになりますね、と竜崎は言う。ナナは頷いた。
「そうですね、まだ記憶がなくなったとは断定できないですし……」
それより心配なのは、月が死んだと知った時の反応だ。月を愛していた海砂は、もしかしたら後追いしてしまうかもしれない。
「……何だか、すっきりしない結末ですね。まさか、死神が月さんを殺すとは、思いませんでした」
死に際に見せた月の本性。見てはいけないものを見てしまったような。
全ては、退屈を感じた死神のせいだ。月はノートを手にしてしまった、不幸な少年のように思えた。
「はい……ですが、キラを逮捕することができた。いつ誰が殺されるかわからない状況で、私たちが勝つことができた……それだけで、私は充分です」
「そう、ですね……あのキラを捕まえられたんですもんね……」
竜崎と同じく、頭の切れるキラを。監視カメラを付けられても、いつも通り犯罪者を裁いていたキラを。
「……佐藤さんのおかげと言えるでしょうね」
竜崎が呟くように言った。
「私、そんな大したことは……」
「佐藤さんが弥を不審に思わなければ、夜神月を監視させてはいなかったと思います」
「……そうでしょうか。第二のキラとキラが繋がったと気づいたら、どっちにしろ月さんを監視していたような……」
「はい……そうしていたと思います。しかしそれでは遅かったと思います。第二のキラを早めに特定できたことが、今回の逮捕につながった」
竜崎は確信したように言う。そして、立ち上がるとこちらに手を差し出した。
「竜崎さん?」
「一緒に捜査してくださり、ありがとうございました」
「こ、こちらこそ私を捜査員にしていただいて、ありがとうございます」
慌ててナナも立ち上がり、彼の手を握る。大きな手は意外にあたたかく、久しぶりの人の体温に安心して、涙が出そうになる。
「……佐藤さん?」
下を向いた自分に、竜崎が問いかける。ナナは涙をぬぐうと、顔を上げて竜崎を見据えた。
「……竜崎さん、私、帰れるような気がします……ほんとに、気がする、だけですけど」
竜崎は驚いたような顔をした。
「今なら帰れるような……ちょっと制服に着替えて寝てみますね」
言って、竜崎の手を名残惜しく思いながら離し、自分に割り当てられた部屋へ向かう。
「佐藤さん」
後ろから呼びかけられ、振り向くと、竜崎は少し口角を上げていた。
「本当に、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、お世話になりました……皆さんにお世話になりましたと、伝えていただいても……?」
「はい、伝えておきます」
ナナも笑みを返した。笑ってみて、初めてこの世界にきて本当に笑えたと気づいた。
「さようなら、佐藤さん。お元気で」
「はい……さようなら、竜崎さん」
・
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誰かが自分を呼んでいた。
「ナナ――ナナ――!」
瞼を開くと、見えたのは見慣れた天井、そして母の姿だった。
「やっと起きた? もう、夕飯なのにいつまで寝てるのよ。しかも制服のままって、皺になっちゃうじゃない」
まったく、と呆れたように母は言う。なんだか懐かしさで胸がいっぱいになり、自然と涙がこぼれた。
「ど、どうしたの?」
「……わかんない」
涙を流しながら、ゆっくりと首を振る。どうして涙が出るのか、どうしてこんな気持ちになったのか、わからない。でもこれだけはわかる――
「私、長い長い夢を、見てた気がする……」
20180803
end