裏の逆の外

2004/05/22

 5月22日の天気は、雲のないまっさらな青空だった。
 青山学院前で月たちと待ち合わせていたナナは、ぼんやりと竜崎から言われたことを思い起こす。松田と一緒に月や他の人々の動きを見ていてくれと頼まれていた。きっとナナたちを誘うはずだからと。東大の友達と談笑していると、しばらくして月と松田がやってきた。

「太郎さん、僕の大学の友達」

「ど…どうも……」

 月が自分たちを紹介する。

「で、僕のいとこの太郎さん。東京は初めてで青山とか六本木とかで楽しく過ごしてみたいんだって。皆よろしく。後彼女も募集中だそうなので、誰か立候補してくれない?」

 ははは、と笑い声が上がる。じゃあ行こうか、と月が皆を先導した。
 月の後ろについたナナは、友人の声に耳を傾けながらもきょろきょろと周りに注意を向ける。特に月にも周りにも変わったところはなかった。しかし、NOTEBLUEに近付いてきたところで――

「?」

 NOTEBLUE手前の喫茶店で、こちらを見ている人物がいる事に気付いた。その人物はおかっぱに眼鏡をかけ、セーラー服を着ていた。彼女は月を見ているような様子だった。じっとそちらを見ていると、彼女と目が合う。彼女は動じない様子でこちらにウインクしてきた。

(何なんだろう……?)

 ナナは不審に思いながらもその場を通り過ぎた。ひとまず、竜崎に報告しておこう。
 ホテルに帰ってきたナナは、夜中の0時過ぎ、皆が寝静まった頃に捜査本部へ向かった。夜神家の監視を行っている時に眠っているところを見た事がなかったので、まだ竜崎は起きているはずだった。竜崎のいる部屋へ向かうと、竜崎はビデオテープの山と共に、今日の青山の監視カメラのビデオを観ていた。

「竜崎さん……」

「はい」

 竜崎はくるりとこちらを振り向いた。

「報告したい事があるんですが、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 ビデオを一時停止する。

「何か動きがありましたか?」

「月さんに不審な動きはなかったんですけど、喫茶店の中から月さんをじっと見ている人物がいました。おかっぱに眼鏡をかけた、セーラー服の女性でした。月さんはかっこいいから、女性に見られることが多いかもしれませんが、その人物はじっと月さんの事を追いかけてて……私と目が合うとウインクされました」

「どの辺の喫茶店ですか?」

 竜崎ががさがさとビデオテープの山を崩しながら言う。

「えーと、NOTEBLUEの手前でした」

「NOTEBLUE……青山でノートを見せ合う……」

 竜崎は呟きながら一本のビデオテープを手に取ると、テレビにセットした。映し出されたのはNOTEBLUE近くの道の映像だった。映像は早送りされ、やがてセーラー服を着た少女が映し出された。竜崎が再生を押すとその人物は軽やかに喫茶店へと入っていった。ナナにはその歩き方に見覚えがあった。

「……すみません、もう一度巻き戻してもらってもいいですか?」

 竜崎が巻き戻す。
 少し内股に、軽やかに歩く小柄な女性……これは――

「……ミサ?」

 浮かんだ名前を呟くと、竜崎が驚いたようにこちらを見た。

「知ってるんですか?」

「はい……たぶん、ミサ、弥海砂だと思います……」

「あまねみさ……」

 竜崎が身を乗り出し、女性を見つめる。

「……セーラー服に校章がありませんね。市販の物を着ている可能性が高い」

 傍らに置かれたパソコンのボタンを押し、ワタリ、と竜崎が呼んだ。

『はい』

「ちょっと来てくれ」

 1分もしないうちに、ワタリが部屋に現れた。

「何でしょう?」

「この、あまねみさという女性を調べてくれ」

 竜崎が画面を指す。ワタリは画面に近付き頷いた。

「わかりました、早急に調べます」

 ワタリは部屋を出ていき、竜崎が口を開いた。

「あまねみさというのは、向こうの世界の佐藤さんの友達ですか?」

「そうです……モデルをしていて、月先生に好意を持っていました……でもミサが第二のキラとは、とても思えません……」

「……………」

 竜崎は無言で親指をくわえた。
 少しして、ノックの音とともにワタリが現れる。もう調べてきたらしい。

「竜崎、報告します」

「……ああ」

「弥海砂、19歳。京都府出身。ヨシダプロダクションに所属し、今年の1月からティーン誌やファッション誌でモデルをしています。2003年5月に両親が強盗によって殺され、今年の2月にキラによりその犯人が死亡。キラとの関わりはそれだけです」

「……弥が上京してきたのはいつ?」

「今年の4月になります」

「そうなると……関東ではめったにない、大阪から送られてきた封筒のテープに付着していた花粉の花。それが弥が住んでいた京都の家の近くに咲いているかもしれない……弥の最近の行動と合わせて調査してくれ」

「はい」

「それと、皆さんをここにお呼びして」

「わかりました」

 会釈してワタリが去っていく。ナナは竜崎に問いかけた。

「まさか、ミサを第二のキラと……?」

「まだ確定はしてませんが、怪しい者は徹底的に調べるべきです」

 ワタリに呼ばれて本部にきた皆は、竜崎の言葉に驚いていた。

「この子が第二のキラかもしれない!?」

「はい……ワタリ、調べたか?」

 ワタリは頷き、口を開いた。

「大阪から送られてきた封筒のテープに付着していた花粉の花は、弥が上京する前に住んでいた京都のアパートの周りに咲いていました。そして現在の弥のアパート周辺の防犯カメラから、セーラー服を着た眼鏡の少女の姿が確認できます。セーラー服は学校のものではなく、市販で売られているものです」

「しかし、それだけで第二のキラだとは言えんな……」

 夜神が画面の少女を見つめながら呟く。竜崎は頷いた。

「そうです。なので模木さんに月くんを監視してもらい、少し様子を見ます。万が一月君がキラだった場合、第二のキラが何らかの形で接触してくるかもしれません……佐藤さん」

「はい」

「一旦月くんから離れ、弥を監視してください」

「……わかりました」


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